「働かないおじさん」をご存じでしょうか。
可能な限り「働かない」ことをモットーにしつつ、辞めずにしっかりと会社に居座りつづける「おじさん」…定義するとそんなところでしょうか。別名「歩く人件費」と呼ばれたりもします。
しかしよく考えてみてください。
会社は仕事をしてもらうために人を雇っています。なぜ、そんな会社に「働かない人」がいるのでしょうか。
本記事では、「働かないおじさんはなぜ生まれるか?」について、企業で人事担当を務める私が解説いたします。
答えは日本独自の雇用システム「メンバーシップ型雇用」にあります。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用

注目されるジョブ型雇用
昨今、欧米式の「ジョブ型雇用」を導入する企業が増えています。
直近では、日立製作所・富士通・KDDIなどの大手企業で導入され話題となっていますね。
ジョブ型雇用とは「職務(ジョブ)に人を結びつける」雇用の形です。
職務を厳格に定めてそれに合致する人を採用する。という雇用システムで
日本企業において、国際競争力の減退に歯止めがかからないこと、リモートワークの普及により差し迫って各社員の職務を明確化する必要性がでたこと、等から導入が進んでいます。
メンバーシップ型雇用とは
これと対比される形で語られるのが、日本独自の雇用システムである「メンバーシップ型雇用」です。
メンバーシップ型雇用とは「会社に人を結びつける」雇用の形です。
就活生は、職務を探して「就職」するのではなく、会社を探して「入社」します。会社のメンバーとなるといった意味で「メンバーシップ型」と呼ばれています。
メンバーシップ型雇用には、次の特徴があります。
- 新卒一括採用(ポテンシャル採用)
- 定期人事異動
- 終身雇用・年功型賃金制度
- 定年退職・退職金制度
これらメンバーシップ型雇用の特徴が「働かないおじさん」を育てる土壌となっているのです。
メンバーシップ型雇用社会で「働かないおじさん」が生まれる理由

新卒一括採用・定期人事異動と「働かないおじさん」
メンバーシップ型の雇用システムを採る日本企業では、「新卒一括採用(ポテンシャル採用)」で社員を採用するのが一般的です。
「職務(ジョブ)」に対して「その職務をこなすスキルがある人」を結びつけるのではなく、新卒で「何もできないけど、なんだか伸びそうな人」を採用します。
そして、ある時期に大量の新入社員が発生することから「定期人事異動」という独自システムが生まれました。
ジョブ型の社会では、あくまで「欠員補充」の際にのみ人事異動が発生するのですが、メンバーシップ型の社会では、新入社員に仕事を割り振るため、無理やり現職者たちの配置を動かします。
社員は、スキルの無い状態で採用され、いろいろな部署を経験することで、能力を向上させていくことを期待されます。
この期待に応えられない人。つまり
スキルの無い状態で採用され、いろいろな部署を経験したけど、結局何のスキルも身につかずにおじさんになった人
そういった社員が「働かないおじさん」になっていくのです。
働こうにもスキルがないから働けない、転職しようにもスキルがないからできない。
ある意味「働かないおじさん」はメンバーシップ型社会の犠牲者と言えるかもしれません。
終身雇用・年功型賃金制度と「働かないおじさん」
「メンバーシップ型」の雇用システムを採る日本企業では、入社から定年まで1つの会社で勤め上げる「終身雇用」の考え方が一般的であり、法理や会社制度もこの考え方に基づいて設計されています。
欧米のように「転職によるキャリアアップ」が一般的ではありません。
また、「働かない」ということだけを理由に、社員を解雇することができません。終身雇用が前提の社会で「解雇」されることは、社員にとって非常に大きな社会的ダメージとなるため、解雇に高いハードルが設けられているのです。

さらに、メンバーシップ型の雇用システムでは「年功型賃金制度」がとられています。
ジョブ型雇用が一般的な欧米では「職務(ジョブ)」をしっかりとこなしていれば、年齢や経験に関わらず、職務に応じた給料が支給されます。(職務給)
一方でメンバーシップ型雇用が一般的な日本では、社員そのものに着目し、社員の能力に見合った給料を支給します。(職能給)
「能力」という非常にあいまいな評価基準を無理やり明確にするために、「能力は年齢(経験)に比例する」という考えの下、年功型の賃金制度となっているのです。
単純に「年齢」で給料が決まっているのではなく、「能力」を評価する基準として「年齢」をモノサシにしている。ということですね。結果的には、給与が年齢に比例して増えていくので「年功型賃金制度」と言われています。
これらのことから、終身雇用・年功型賃金制度が前提のメンバーシップ型雇用の社会では、
- 働かなくてもクビにならない
- 働かなくても、転職しなくても、給料が上がっていく
という「働かないおじさん」にとって、とても過ごしやすい環境が醸成されているのです。
メンバーシップ型雇用の闇「働かないおじさん」まとめ

メンバーシップ型雇用の光と闇
ジョブ型の根付く欧米社会では、自らの職務(ジョブ)を果たさない「働かないおじさん」は
You’re fired.
の一言でクビになります。
そして空いたポストは欠員補充の形で公募され、目まぐるしいスピードで新陳代謝が起こります。
一方で、メンバーシップ型の日本には、
- 新卒一括採用で採用されて
- 定期人事異動を経てもスキルが身につかなかった割に
- 年功型賃金制度によって、それなりの給料をもらいながら
- 終身雇用制度を盾に会社に居座る
- おじさん
誰が呼んだか「働かないおじさん」が存在します。
これを問題視する企業がジョブ型雇用の導入を進めているのです。
本記事では、メンバーシップ型雇用の闇「働かないおじさん」と題して、日本企業において「働かないおじさん」が生まれる原因を解説してきました。
ここでは触れませんでしたが、メンバーシップ型雇用には悪い面もあればいい面もあります。
新卒一括採用のおかげで、欧米と比べて学卒者の失業率が突出して低いことはメンバーシップ型雇用の「光」の側面として真っ先に挙げられる点でしょう。
欧米には「働けないワカモノ」がたくさんいるのです。

ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用の理解を深める際におすすめの書籍
ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用の理解を深めたい方には、こちらの本がおすすめです。
「ジョブ型雇用」・「メンバーシップ型雇用」という言葉を初めて使用した、労働政策研究所所長の濱口桂一郎氏が著者の本で、
日本がどのようにメンバーシップ型の社会になったのか、日本企業がどのようにジョブ型雇用を導入していくべきか、等が非常に分かりやすく書かれています。
私の会社で「ジョブ型雇用」を導入する際にも、勉強のために何度も拝読させていただきました。
「働かないおじさん」は、メンバーシップ型雇用社会の闇の一角です。
ジョブ型・メンバーシップ型、それぞれのメリット・デメリットにしっかり目を向け、すこしずつシフトチェンジを進めていくことが、現在日本企業に求められています。