昨今、日立製作所や富士通・KDDIなどの大手企業が「ジョブ型雇用」を導入し話題となっております。
ジョブ型雇用は「日本の国際競争力の低下に歯止めをかける救世主」として、その導入メリットにスポットライトが当たっておりますが、一方で懸念すべき点もあります。
ジョブ型雇用社会である欧米諸国では、若年層の失業率が軒並み10%を超えているのです。【日本は5.1%】
本記事では、東証一部上場企業の人事担当者である私が、ジョブ型雇用社会の問題点と、今後の日本企業の展望について、解説いたします。
なお、私の勤める会社においても、昨年度「ジョブ型雇用制度」を導入しております。
日本・欧米の失業率比較

日本と欧米の失業率を比較してみましょう。
失業率 | 若年層失業率(15~24歳) | |
日本 | 3.1% | 5.1% |
アメリカ | 4.9% | 10.4% |
イギリス | 4.8% | 13.2% |
フランス | 10.1% | 24.1% |
イタリア | 11.7% | 37.8% |
OECD database (http://stats.oecd.org/) “LFS by sex and age”2017年7月
欧米諸国の若年層の失業率は、日本の2倍以上となっています。
なぜここまでの差が生まれるのでしょうか?
ジョブ型雇用社会の「就職できない若者」問題
ジョブ型雇用社会で新たに社員を採用する際には、「欠員補充方式」がとられます。
欠員が出たポストについて社内・社外に募集をかけ、応募があったものの中から採用するものを選抜する、というやり方です。
企業が求める人材は「当該ポストの役割を果たせるもの」。
「その道何十年のベテラン」と「新卒で職業経験も知識も何も持たないような若者」が同じポストに応募した時、当然ながら企業は後者を採用することとなります。
ここに、ジョブ型雇用社会において、若年層の失業率が高い要因があります。
つまり、「新卒で職業経験も知識も何も持たないような若者」を雇おうとする会社がないのです。
ジョブ型雇用社会での雇用問題の中心は常に「若者」であるということを覚えておいてもらえればと思います。
日本(メンバーシップ型雇用社会)の「人間力就活」

新卒一括採用で若者の失業率が低い
ご存じのとおり、日本では「新卒一括採用」方式で社員を採用します。
企業が求める人材は「人間力があるひと」。
「新卒で職業経験も知識も何も持たないような若者」をある時期に大量に採用します。
欧米諸国にとっては全く理解できないやり方ですが、このおかげで、若者の失業率が低く抑えられている、ということですね。
「人間力就活」のための「地頭を鍛える教育」
日本企業が新卒採用時に重視するのは、職業経験や職業知識ではありません。
「人間力」というなんともあいまいなものです。
このため、日本の学校教育では、欧米と違い、職業知識に関する授業を全くと言っていいほど行いません。
仕事で絶対使わないような勉強をさせるのも、あくまで「地頭を鍛えること」を主眼に置いているからです。
新入社員が、会社でどんなことをするのかほとんど理解しないまま入社するという点も、欧米では考えられない、日本社会の特徴となります。

他人事じゃない!?日本に広がるジョブ型雇用

日本企業が続々とジョブ型雇用を導入を進めるのには、以下の背景があります。
- 経団連 中西宏明会長によるジョブ型雇用導入に関する提言
- 新型コロナウイルスの影響による業務実施環境の変化
- 同一労働 同一賃金関連法案の施行
- 日本の国際競争力低下に伴う「成果主義」への転換
とりわけ日本の国際競争力低下については、各企業とも危機感を感じており、大手企業がジョブ型雇用への転換を進める大きな材料となっております。
日本の若年層失業率が欧米並みに上がることは当分ない
日本企業で取り入れられている「ジョブ型雇用制度」は主に次の特徴があります。
- 各ジョブの職務内容を明確にするため「ジョブディスクリプション」を作成
- 従前の年功型賃金制度を廃止し、職務内容に応じた「職務給」を設定
- 新卒一括採用は継続
重要なことは、「新卒一括採用は継続」していることです。
すでに説明したとおり、新卒一括採用は日本に根付いた採用方式であり、この前提のもと、学校教育が成り立っています。
一部の企業が導入を始めた、という現段階において、新卒一括採用の是非を問う議論はまだまだ行われていないのが現状です。
今後、
ジョブ型雇用 + 新卒一括採用
が「日本式のジョブ型雇用」として確立されることになるかもしれません。
日本に根差した「新卒一括採用」という採用方式が、ジョブ型の雇用システムと共存するか、時間をかけてなくなっていくのか、現段階では不明確ですが、少なくとも当分の間は「共存」の形をとり、若年層が欧米並みに上がることはないと言えるでしょう。